同窓会で、50歳を過ぎたフリーランスが、いまさら営業をできるのだろうか…
「ふう〜ん…新宿のど真ん中で…大きな仕事ばかり…していると思ったぜ…」
「……い…いえ…」
同窓会に出席した時、隣に座った同級生に、
酔った勢いで、仕事の不安を吐露したら、冷たく言われた。
同窓会には、いつも…
金髪に派手な服で、どちらかといえばイケイケで、出席していた。
新宿に事務所を構え、スタッフを雇い、どれだけ歳を重ねても、
高校生の頃から変わらず、やんちゃで、とんがっている姿のままでいることを、
どこか、周りからも期待されていたような気もする。
だから…
急に、出版不況だとか、子どもの学費だとか、言い出しても、
場はシラけるばかり…
僕も、話をすることが、だんだん恥ずかしくなってきて、
最も社会的に失敗してしまった人間のような気分になってくる。
同窓会は、人生をうまく泳いでいる人たちが、
資産運用や余暇の過ごし方、それに病気や年金の話をする場で、
仕事の相談なんてしてはいけないのかもしれない…
「…ゆうすけ…そんなに大変なら…ウチのメニューでも創ってみるかい?」
僕の話を聞いて、同級生の居酒屋のオーナーが、声をかけてくれた。
「…えっ!う…うん…是非やらしてよ!」
「金は…たいして払えないよ…」
「…あ…ありがとう…」
酔った勢いでの、仕事の話が広がったものの、
翌日になって、
せっかく声をかけてくれた居酒屋のオーナーの、
メールも携帯もfacewbookもLINEも、連絡先の一切を、
知らないことに気がついた。
お酒の席での話だから、このまま放っておけば、消えてなくなってしまう。
でも…
いままで一度も連絡したことのない、同級生の連絡先を調べて、電話をかけて、
「あのときのメニューの話なんだけれど…」と切り出す勇気が、
僕にあるだろうか…
あるはずだ!自分で言い出したこと…やらなくっちゃ、友だちにも申し訳ない。
同窓会の幹事に連絡をして、連絡先を教えてくれと…頼んだ。
それから…
居酒屋のオーナーに、電話をかける勇気を見つけられなくて、
携帯電話が繋がるまで、3時間もかかってしまった…
「あ…あの…昨日の話なんだけれど…」
「ひぇ〜本気だったんだ…本当にウチなんかのメニューでいいの?」
意を決しててかけた電話の相手は、とても暖かかった。
高校を卒業して…
それぞれの道で、それぞれの仕事をして、それぞれの家庭を持ち、
50も過ぎれば、なんとなく…それぞれの人生を想像できる。
いまの僕の苦しみを、同級生は理解してくれたから、
手を差し伸べてくれた。
かっこ悪いし、恥ずかしいけれど、ありがたい。
歳をとるって、こういうことかもしれない。
見栄や体裁…意地やプライドから、どんどん解放されて、
素直に…純粋無垢な赤ん坊に戻ってゆく…
友だち関係だって、もっともっと楽になってゆく。
歳を重ねることは、悪いことばかりではない。
入学式で桜を眺め、小さなデザイン事務所があと10年生き残るためには…どうすればいいのか考えた。
ちょっと大きめの制服に身を包み、
口元をキュッと引き締め、硬ばった表情で、
体育館に入場してくる娘を見た。
「今日から…大学卒業までの10年間が始まります…」
校長先生の挨拶を聞いたとき、
唐突に10年という年月を、突きつけられた気がした。
10年…
娘が、泣いて笑って怒って泣いて…
新しいご学友と過ごす青春の日々を、
僕は、保障しなければならない。
雑誌や書籍、紙媒体しか創れない、
新宿に小さな事務所を構える、時代遅れのデザイナーが、
あと10年…稼がなければならない。
中学に入学したばかりの娘のために、
来年は大学受験に臨む息子のために、
ウチの事務所で働いてくれるスタッフのために、
僕は、稼がなければならない。
ひとり…入学式を抜け出し、
満開の桜を眺めて、考えた。
あと10年…紙媒体の仕事をするには、どうすればいいのだろう…
雑誌はずっと存続するだろうか…
書籍は豊富に刊行されるだろうか…
紙媒体の役割は変わらず続くだろうか…
わからない…
わからないから、
いてもたってもいられず、blogを始めてみることにしました。